一次予防と二次予防
モラルハザードを理解しよう
当院の患者さんの、診療の内容割合が少しずつ変化してきているようです。9台のユニットのうち2台はメインテナンス、つまり2次予防に当てられている患者さんでアポイントは埋まります。それがもう一台必要になってきているようなのです。治療用を減らしてくれとね(笑)。非常に良いことだとは思うのですが、これはあくまでも患者さんの治療を前提とした二次予防であり、当然ながら当院を受診し診断しプランを立て、そしてその結果その予防に至るまでの前提には処置歯数の増加や健全歯数の減少が起きていることもまた事実なのです。
何故なんでしょう???
学校検診や成人歯科検診をはじめとする一次予防の推進こそが、本来の国民保険の有り方であるはずなのですが、その浸透や行政プログラムは世界の先進諸国に比べても非常に陳腐なシステムであると言わざるをえません。
何故なんでしょう???
どうやらその答えこそが「事前的モラルハザードの誘発」と言うことです。医療保険には様々なシステム理論があります。その一つに二種類のモラルハザード理論というのがあります。これこそがいわゆる「事前的モラルハザード」と「事後的モラルハザード」。後者はこの際は関係ないでしょうから説明は省きます。
すなわち、簡単に前者を説明すると・・・ある病気にAという保険が設定されるとしましょう。その病気のリスクは被保険者(患者さん)の注意とか努力とかで発生確率は当然変化します。そこにBという手厚い保険が登場したとします。何が手厚いかというと、例えば掛け金が半額だとか、一部負担が無いとか。するとどうでしょう。被保険者はそれだけ病気に関連する費用などのリスクが減るので、直接的あるいは間接的に費用がかかる予防行動に対して無頓着になります。これを「事前的モラルハザード」と言うわけです。
今の歯科保健システムはまさにこれにあたるわけですが、一般の患者さん達は比較するモノ(他国の保険等)がありませんから、現状の受診率や受診動向や結果から憶測するしかないわけですね。その結果、患者さんが二次予防処置としてのメインテナンスに費用をかけてもいいと考える背景には一次予防が不足した反省も含まれるし、最後の補綴に相当額高額な補綴を選択した場合、見かけ上の二次予防処置と理解するが為に、まさしく当院のユニットがメインテナンス予防処置で埋まってくる背景なのです。
要約すると、インプラントを含む高額の補綴や長期の治療期間というリスクをすでに経験している患者さんは、事前的モラルハザードの誘発から外れて、一次予防(見かけ上の二次予防)の受診が上昇するという結果が歴然としているわけです。今世間一般に議論されている歯科受診を上昇させるための保険負担率の低下など(手厚い保険)は、疾病リスクの上昇を招き事前的モラルハザードの誘発にもろに出くわすわけです。これは、賢い国民にあらぬ疑いをかけられるだけではなく、医師歯科医師の評価を下げかねない結果を招くでしょう。
Posted: 木 - 12月 10, 2009 at 05:40 午後