{2} 診断用ワックスアップを介して、その情報を
プロビジョナルレストレーションに置き換える。
「プロビジョナルレストレーション」という言葉の意味を考えてみます。
Pro:前に、Visional:見ることが出来る、Restoration:補綴物
つまり、最終的な補綴物の形態的なイメージは勿論のこと、それによる歯周組織の反応、カリエスへの対応、咬合の安定と顎口腔系の力のコントロール等を含めて、設定した下顎位が患者さんに受け入れてもらえるかどうかを確認する、有益な方法の一つであると考えられます。また、それによって、歯科医師と歯科技工士が共通の認識の元に医療を遂行し、予知性の高い歯科医療を歯科医師・歯科技工士共に行うことが出来ます
それでは、診断用ワックスアップの情報をプロビジョナルレストレーションに再現する方法を紹介します。
1.通法に従い、診断用模型及び作業用模型を咬合器にマウントする。
この際、最も注意しなければならない事として、患者さんの有する顎機能が咬合器に適切にトランスファーされている事は勿論のこと、患者さんを真正面から診た状態と、咬合器にマウントされた診断用模型並びに作業用模型を真正面から見た状態が同じ環境であると事です。これがなされていなければ、今後の作業は歯科医師、歯科技工士、そして患者さんにとって有益な医療にはなり得ないことは充分認識しなければなりません。(この方法に関しては、各成書を参照されたい)
2.診断用ワックスアップを行う
補綴物を作製する際に気を付けなければならない事として
^どこに歯をならべるか(咬合平面の位置)
_どこで咬ませるか(中心咬合位の位置及び安定性)
`どこでガイドさせるか(偏心運動の方向及び部位)
が考えられますが、この中で最も軽視されがちなものは^どこに歯をならべるか(咬合平面の位置)ではないでしょうか。それによって、色々なトラブルが生じていることは周知の事実です。
我々は補綴物を作製する場合、何かを基準として作製します。その基準は、対合歯であったり、反対同名歯であったり、隣在歯であったりです。しかし、その基準が失われていたり、あっても信頼できる基準になり得ない場合、その基準を不変的な要素へ求めざるを得なくなってしまいます。その場合、我々は、垂直的要素としての正中矢状面とそれに直交する水平的要素である咬合平面の2つの要素を基準として咬合平面の位置を設定します。これによって前述した「患者さんを真正面から診た状態と、咬合器にマウントされた診断用模型並びに作業用模型を真正面から見た状態」が同じ環境として再現できると確信しています。
以下に診断用ワックスアップをプロビジョナルレストレーションに置き換える方法を説明します。
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この際、図.2での咬合採得時に前歯部のインサイザルレコードを採得します。この材料として一般的にパターンレジンが用いられると思われますが、筆者は三金光重合型グラスアイオノマー系コンポジットレジン「クシーノ」を多用しています。図.5は図.2で採得したインサイザルレコードを介し、咬合採得した咬合床をそのまま使用して作業用咬合採得している状態です。
クシーノは操作性・粘調度・寸法安定性等に優れ、インサイザルレコードを採得する丁度良い材料ではないかと思われます。
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この際にカスタムインサイザルテーブルを作製 |
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この情報をプロビジョナルレストレーションに置き換えることが出来なければせっかくの技工士の苦労は半分以下となってしまいます。それはあまりにももったいないことです。
そこで、次の方法を説明します。
3.診断用ワックスアップを重合する
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このポイントはシリコーンで印象採得した外側を石膏でバックアップし、この石膏と作業用模型の石膏とを接触させることです。得られた印象内面にスプリントレジンのLIQIDを流し入れ、それにPOWDERを均等にふりかけ、餅状になるのを待ちます。基本的にシリコーンは水分をはじくので、手際よくやることによって、シリコーンにLIQIDが吸収されたり、印象面が荒れたりすることは、認められません。
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作業用模型にスプリントレジンを流し込んだ印象を模型の石膏とバックアップの石膏が接触するまでバリを取って圧接し、輪ゴムで固定し、真空プレス器に入れます。
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レジンに置き換えた結果、重合ひずみが大きく、咬合調整量が多ければ、せっかく診断用ワックスアップで与えた歯冠形態・咬合接触関係が崩れてしまい、泣きながら咬合調整した事を思い出す技工士さんも多いでしょう。図.26でおわかりのように重合後の浮き上がりがほとんど無いことは特筆できることではないでしょうか。
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以上がスプリントレジンを用いた診断用ワックスアップの情報をプロビジョナルレストレーションに置き換える方法です。
このように多数歯にわたる補綴治療を余儀なくされた場合、我々が設定した口腔環境をプロビジョナルレストレーションで確認し、受け入れてもらえた場合に、それを最終補綴物を作製・装着する際の口腔環境と決定する事が出来ます。つまり、歯科医師が押し付けたものではなく、患者・歯科医師・歯科技工士が共に作り上げた口腔環境と言えるのではないでしょうか。
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