我々の日常臨床において、修復治療の占める割合は非常に多く、その中でクラウン・ブリッジによる修復治療、つまり補綴治療を行う際に、プロビジョナルレストレーションの必要性並びに重要性は誰もが認めるものです。
中でも、多数歯における補綴治療を余儀なくされた場合、その結果、患者の下顎位自体を補綴物で回復する必要がある場合、術者が与えた下顎位が患者に受け入れられるかどうか、術者・患者相互の確認が必要となって来ます。その方法として、プロビジョナルレストレーションでの確認は不可欠なステップです。
プロビジョナルレストレーションの作製方法として、
1. 患者の口腔内で直接法にて作製する。
2. 診断用ワックスアップを介して、その情報をプロビジョナルレストレーションに置き換える。
の二つの方法が考えられます。
前者の場合、現在入っている補綴物を除去し、新しい補綴物を作製する場合・天然歯を形成して補綴物を作製する場合がありますが、いずれにせよ、そのポイントとして、現在ある下顎位を変えないと言うのが重要になります。
また、後者の場合は、下顎位、咬合接触関係、咬合高径、咬合平面、歯軸の位置・方向、歯牙の形態、偏心運動の部位・方向、アンテリアガイダンスの程度等を考慮したプロビジョナルレストレーションを作製する際に、歯科医師と歯科技工士が共通の認識の元に医療を遂行するために、適切な状態で咬合器にマウントされた診断用模型での診断用ワックスアップは、その重要なガイドとなります。
この診断用ワックスアップの状態は単なるプロビジョナルレストレーションのためのみならず、最終的な補綴物の参考になり、予知性の高い歯科医療を歯科医師・歯科技工士共に行うことが出来ます。しかし、せっかくの診断用ワックスアップをそのままプロビジョナルレストレーションに再現出来なければ、今までの作業・苦労は水疱と化してしまいます。
プロビジョナルレストレーションの材料として必要な条件は
(1)咬合圧に対する強度
(2)耐摩耗性
(3)操作性
(4)色調
(5)口腔内における安定性
が考えられます。従来その材料として、即時重合レジンが用いられていましたが、我々は(1)・(2)・(4)・(5)においてスプリントレジンが、よりその条件を、より満たしていると実感しております。(3)操作性に関しては従来の即時重合レジンと同等と思われます。
今回、我々が行っている、スプリントレジンを使用して、口腔内での直説法におけるテンポラリークラウンの作製方法、並びに診断用ワックスアップを介してその情報をプロビジョナルレストレーションに再現する方法を紹介します。
{1} 患者の口腔内で直接法にてテンポラリークラウンを作製する。
患者さんの口腔内で直接法にてテンポラリークラウンを作製する際に、レジンのモノマーとポリマーを混ぜて、餅状にして歯牙に適合させ、咬合させ、対合関係を再現する方法が良く用いられていると思います。
しかし、その際、レジンの重合による発熱・不快感等により、患者さんに苦痛をしいてしまう事や、重合歪みにより、調整量が多くなったり、歯牙の形態を付与することに苦労します。また、重合時にレジンが唾液を含んでしまい、レジン本来の色調より、黄色くなる傾向があります。
しかし、この方法ですと、これらの多くは解消されます。
1.補綴物を除去する予定の歯牙の印象採得をします。(図.1,2,3,4)
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2.この印象にスプリントレジンを筆積み法で素早く流します。(図.5,6)この際の注意点として、多量に流さないことです。
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図.5 筆積みでスプリントレジンを流している状態 |
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図.7 印象面にスプリントレジンを流し終えてから、逆さまにしている状態 |
3.印象面にスプリントレジンを流した後、それを逆にして、余剰のスプリントレジンを下方に流します。(図.7)
4.スプリントレジンの硬化後、壊さないように慎重に印象材から取り出します。
これで、歯牙の外形だけのレジンシェルが出来上がります。(図.8,9,10)
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図.10 次回来院予定の患者さんの作製しておいてあるレジンシェル |
次回のアポイントが決まり、その予定が補綴物の除去ならば、その時点で印象採得し、ここまでを患者さんが来院する前に作製しておきます。この時点で、シェルは最終硬化しており、口腔内に入れても唾液の影響を受ける事無く、レジンの色調そのままのテンポラリークラウンを作製できることはおわかりいただけると思います。もちろん、同日に除去する前に印象採得し、形成しながら作製しても構いません。
5.補綴物を除去し、形成後、作製しておいたシェルにスプリントレジンを筆積み法で盛り、ある程度
餅状になってから、歯牙に圧接し、嵌合させ、通法通り抜き差しを繰り返します。
同様な方法で、シリコーンで印象採得し、形成後、シリコーンの咬合面にレジンを填入し、圧接する方法がありますが、硬化のタイミングがつかめず、結果的にテンポラリークラウンが外れなかったり、かなり高い物が出来てしまう事がよくありますので、この方法の方がレジンの硬化を自由に把握・調節でき、より効果的ではないかと考えます。シェルは除去した補綴物の咬合面と同じ形態をしておりますので、容易に咬頭嵌合させることが出来、術前の咬合接触状態の変化を最小限に抑えた状態で、テンポラリークラウンを作製することが出来ます。また、歯冠形態修正もする必要がないので、調整に要する時間はレジンが硬化し、マージンを調整し、研磨するだけの時間で済み、従来の方法より非常に少なくてすみます。(図.11,12,13,14)
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図.15は初診時口腔内で、図.16はこの方法を用い、全て直接法にてテンポラリークラウンに置き換えた口腔内です。
同様に作製した別な症例です。
図.15は口腔内側面観、図.16・17は印象、図.18はスプリントレジンを筆積み法で盛っている状態、図.19はそれを逆さまにしている状態です。
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で、図.20・21は口腔内に試適し、調整が終了した状態です。
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図.22は上顎をセットした状態、図.23は同様にして作製した下顎をセットした状態です。
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テンポラリークラウン |
テンポラリークラウン |
以上が口腔内で直接法によるテンポラリークラウンの作製方法の実際です。
この内容は三金の情報誌「Dental Platz」’99 Vol. 5 に掲載されました。
次のステップとして図.16から診断用ワックスアップを介して
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口腔内試適 |
プロビジョナルレストレーション |
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プロビジョナルレストレーション |
プロビジョナルレストレーション |
と移行するわけです。
次は、この2. 診断用ワックスアップを介して、その情報をプロビジョナルレストレーションに置き換える。をご紹介します。
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